食品産業研究会                                      
                                                
食品製造業の現状
  食品製造業は図1左端のように日本の製造業の就業者の13%を占める,日本の製造業の中で最も就業者の多い最大の製造業です。しかし就業者規模が最大であるにも関わらず,その生産性が低く,図2のように,そのため付加価値金額は8%しかなく,付加価値額では第4位の製造業になります。
 図3の左端が全製造業の平均の生産性(一人当たり付加価値金額)です。この額に対して右隣の食品製造業の付加価値は約60%しかありません。平均給与は極めて低く,その額は全製造業中最低レベルです。食品製造業の従業員は経済的に幸せといえるのでしょうか。こんなことで食品製造業は良いのでしょうか。政府はこの現状をどのように考えているのでしょうか。

食品製造業の就業者数は全製造業の13%で製造業最大の製造業

図1
食品製造業の付加価値金額は製造業中4位

図2
食品製造業の平均給与額は製造業中最低クラス
図3


  生産性の向上は資本の増強,労働力の投入によってなされますが,そのほかの要素もあります。その他の全ての要素を合わせたものを全要素生産性と呼びます。この中には工学的な科学技術の進歩,規模の経済性,経営革新,労働能力や規制緩和があり,広義の技術進歩率と見なされています。下図の電気機械,化学,輸送機械,精密機械の全要素生産性が高いのは一般的な感覚と合致していると思います。
 問題は食品製造業の全要素生産性の低さです。20年以上にわたってマイナス成長です。これにより科学進歩が後退したと見る事が出来るかどうかは別として,科学的進歩による生産性の向上が少なくとも他の産業と比較して少ないことは間違いないでしょう。これは生産性が低いと問題視されている,サービス,販売業よりもはるかに低いわけです。 このような状況を食品製造業に属されている皆さんはどのように考えられているのでしょうか。また食品に関する研究機関や大学や企業の研究者は,このような現状をどのように考えておられるでしょうか。このような実態になっている原因は何でしょうか。またどこにその原因があり,その責任は誰にあるのでしょうか。

食品製造業では科学技術進歩による生産性の向上が統計的に確認できない
図4


 
 食品製造業の生産性が低いことは既に述べましたが,食品製造業の中にも高低があります。下図では,左から生産性の高い製造業の順番に並んでいますが,ぶどう糖,飲料,砂糖,植物油脂,加工油脂,調味料,でんぷん,小麦粉など,殆どが装置型の食品製造業です。反対に右から生産性が低い順に並んでいます。畜産食品,惣菜,豆腐・油揚,塩干・塩蔵などの労働集約型の食品製造業ばかりです。。
 あずき色のバーは生産性(付加価値金額/人)ですが,青灰色の一人当たりの給与も略生産性の高いものから,低いものに減少しています。生産性が低ければ,良い給与が払えないのは当然のことです。したがって食品製造業の従事者の賃金を上げるためには生産性を向上することしかないとも言えるわけです。皆さんが属されている製造業はいずれの食品製造業でしょうか。それぞれの食品製造業の生産性低下の原因を見つけて,少しでも生産性を向上させたいものです。


図5
 左から ぶどう糖,清涼飲料,砂糖精糖,植物油脂,食用加工油脂,調味料でんぷん,小麦粉,しょう油,ソース,乳製品精麦,精米,(製造業計),他パン菓子,うま味調味料,食酢,砂糖製造,動物油脂,他製粉,味噌,ビスケット,米菓,餡類,(食料品),パン,冷凍水産物,肉製品,水産缶瓶詰,生菓子,農産缶詰,麺類,冷凍調理食品,水産練製品,海草,冷凍水産食品,その他水産,他食品,野菜漬物,塩干・塩蔵,豆腐・油揚,惣菜,畜産食品

  従来食品製造業の生産性の低い理由の最大の原因の一つに,その規模が小さい事が挙げられておりますが,図6に見られる様に,一般機械製造業のほうが食品製造業より,零細小事業所に従事する就業者の方がはるかに多く,しかもその生産性は食品製造業よりも約40%ほど高く,製造業平均の生産性です。仮に零細・小規模工場に従事している従事者が多い事が生産性低下の原因であれば,機械製造業の生産性は食品製造業の生産性より低いはずですが,現実にはそうではありません。零細・小規模工場の従事者が多い事が,食品製造業の生産性を低下させているという考え方は明らかに間違いのようです。
  通常製造業においては工場の従業員規模が大きくなると,図7のようにその生産性は高くなりますが,食品製造業の生産性は,全製造業の平均と比べて工場規模の拡大による生産性の向上は見られません。食品製造業においては,規模の拡大のメリットが生かされていないようです。工場の運営に何かが欠けている可能性が予想されています。


図7
  図8は食品製造業よりはるかに生産性の高い電気製造業の工場の様子(通路内の人は見学者)で,図9は水産加工場の様子です。いずれも労働集約的です。しかしその生産性には大きな開きがあります。この写真の中に生産性の差の秘密があるのでしょうか。

図8

図9

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